同じものを見ていても、感じ取り方は人それぞれ。何も感じない人もいます。
そういうシチュエーションに出くわすと、いつも新卒で入った会社の同期のことを思い出します。

毎日新しい情報を持ってこいという顧客

私が新卒で入社したのは印刷会社です。営業担当として配属になり、1年目は主に市役所の広報紙などの配付物や民間企業のパンフレット、パソコンのマニュアルなどを担当していました。

私と違って、大学関係の印刷物を担当する同期もいました。
その彼が困っていたのが、「毎日新しい情報を持ってこい」という顧客からの依頼です。

ただし、新しい情報といっても、特別な情報というわけではありません。
大学までの道中の電車の中から見える景色、道路の看板が変わったなど、何でもいいからとにかく新しい話題を持ってきなさいという依頼でした。

私はそれを聞いたとき、変わった人がいるもんだなと思ったし、自分が担当じゃなくて良かったと思ったものです。
当時はインターネットはそれほど普及していない時代です。
何かを調べるためには図書館に足を運ばなければいけない時代。
面倒な担当先に当たらなくて良かったと思っていました(笑)

何かを見て何を感じてどんな行動をとるかの大切さ

今の年齢になっても新卒のころの同期の話を思い出します。
それは、あの時の話がとても重要だと感じているから。

MRもそうですが、営業担当者が仕事をしなくなる大きな原因の一つが「ネタ切れで訪問しなくなること」です。
「ネタがないので訪問できません」という経験不足のMRは多いです。会社がネタを提供してくれないことに文句を言うんです。でも普通に考えて、毎日毎日新製品が出るような企業はないでしょう。ネタを提供してくれる部署を作ってくれていれば営業担当者も楽になるのかもしれませんが、面会するのは自分だから、それでも限界はある。
現在は、面会ではなくてオンライン面談で、という状況があるので、さらに営業担当者の仕事は難しいかもしれません。結局は営業担当者が自分自身でネタ作りをして、訪問ごとに種をまいて、次の訪問を可能にするスキルが問われるんです。
そんなに面会することが大事なのか?という疑問もあるかもしれませんが、もしあなたが何かを買おうと思った時、日ごろから一緒に遊んでいる友人と、初めて会った人と、どちらが薦める商品を買いたいと思いますか?単純な話です。信用できない人の言う通りに行動したくないというのも同じ。
製薬会社の場合は、副作用情報の収集などその後のフォロー体制が重要なので、会社はもちろん担当者も見られています。

自分でネタ作りをするには、見たものに着眼する力、そこから何かを感じ取り、可能性を想像する力、自分の知識のネットワークの中からそれを役立てられるところに結び付ける力、そういった能力が必要になってきます。

そういった能力、私は全くありませんでした。
同期の話を聞いて、「面倒な担当先に当たらなくて良かった」と思うくらいですから。

「『ネタがないので訪問できません』という経験不足のMR」は私です。
よく会社の文句を言っていましたよ(笑)

でも30代後半くらいから少しスキルが身についてきたという自信はあるんです。
スキルを身につける過程を振り返ってみると、会社の先輩や研修の影響が大きい気がしています。

別な機会にも書きましたが、大企業は人材育成のために何億円という投資をしています。
それは競争力のある組織を維持するには、優秀な人財が何よりも大切だということを身に染みて感じているからでしょう。
30代からは、私もそういう研修を日常的に受けていました。
例えば、顧客の机に家族写真があったらどんな人?何も置かれていなかったらどんな人?スケジュール表があったらどんな人?
そんなところまで着目して、「そういう人にはどういう話題なら聞いてもらえるのか?」ということを学び、その人に合わせた面会のストーリーを考えて会話することを、研修で徹底的に訓練します。

10年もこういう会社にいると、何気ない何かに気づいてものを考えるということを、自然と行うようになってきます。先輩も後輩も、まわりがみんな同じ教育研修を受けて同じことを身につけている人たちなので当然でしょう。

だから私は今でも、初めて会って挨拶をした人の一言を聞いただけで、この人は○○な人だなというような想像をしてしまいます。人見知りで人付き合いが苦手なので、会話は苦手ですけど、考えることだけはしています。

ところで、
「スキルを身につける過程を振り返ってみると、会社の先輩や研修の影響が大きい気がしています」と書きましたが、「毎日新しい情報を持ってこいという顧客」で最初に書いた通り、新卒の頃に気づきを与えてくれようとした人がいたんです。
あの時、同期に学んで素直に自分事として行動していたら、もっと早い時期から仕事の成果を出せて、人生が変わっていたかもしれません。

大学教授から言われた話「経営者目線で俯瞰してみる」

若い頃に言われて意味がわからなかったけど、今になってわかることとして思い出すことがもう一つあります。
それは、企業論や企業法務を担当していた先生の話です。

「企業に就職したら、経営者の視点で俯瞰してみることができなければだめだ」

とよく話していました。
私は、「よく意味がわからないけど、そのつもりだけどな。」と偉そうなことを考えていました。

でも企業という組織の中に長くいて、「あ、こういうことか」とわかるようになりました。

例えばの話ですが、「こんなにいつも頑張っているのに、会社は何も評価してくれない。出世できない。給料が上がらない」という人がいます。

これ、経営者目線で見たらどうなるでしょうか?
「頑張っている」というのが、何をどう頑張ったのか?
会社の収益を上げたのか、従業員の士気を上げて組織の売り上げを伸ばしたのか。会社の経営にとって意味のあることが起きていなけば、評価することができませんよね。時間をかけることが頑張っているということではないのです。
で、まともな企業なら、そんなことすらわかない人を出世させるわけもないし、給料を上げるわけもない。

ちなみに、「頑張っている」という人の全てを否定しているわけではありません。
自分が頑張っていると本当に言えるのなら、「自分が頑張っているといえることを、目に見える形で、わかってもらえるように提示すればいいでしょ。」と思うのです。そういうことを考えるのが人間の知恵じゃないですか。
評価してくれないから、「やってられるか」と言って不貞腐れていても何の解決にもならない。
厳しいようですが、それを考えられない人だから、評価してもらえないんですよ。

【補足】——————

考えられる手を尽くしてもどうしてもおかしい、間違っているというなら、他の組織に転職するか、自分で独立してやってみればいいだけのこと。評価する側にまわればいい。それを止める決まりなんてないですから。

(そんな自信はない?それを言ってしまったら、自分が評価されるに値しない人間だって半分認めてしまったようなものじゃないですか?まずは自分が成長しましょう。)

本当にどうしようもない組織なら、志ある有能な人たちは離れて行っていずれ消滅するでしょう。

正論を並べたらこういうことになるんですよ(笑)
でも、人それぞれ色々な環境があり、事情がある。不慮の事故だってあるかもしれません。
だから、正論をわかっていながらも、個別の事情を考慮して、それぞれの人たちの話を聞く。
そして成果を出せるように粘りずよく導き、成長を促して、次のリーダーを育てられる人がマネージャーでなければいけません。

年齢・性別は関係ありませんし、営業成績がいいだけの人、何でも認めて何でもやってあげる一見優しくみえるだけの人、厳しいだけの人、そんな人には務まらないんです。

——————

私自身、30歳を過ぎても、「会社が何もやってくれない。会社が悪い。」と愚痴を言い続けていた人間でしたが、長く働いていてそういうことに気づきました。変わるべきなのは自分なんだということを。
自分の置かれた環境を変えたければ、自分で考えて変える行動を起こさないといけません。

「企業に就職したら、経営者の視点で俯瞰してみることができなければだめだ」

深い意味のある言葉でした。

まとめ

今になって振り返ってみると、今の年齢になっても重要だと思えることを、若い頃に教えられているんですよね。
でも残念ながら若い頃って、経験不足で理解力がなくて生意気で、さらに、面倒くさがりで目標も野心もなくて、教えられたことを素直に行動に移すことができませんでした。

小学生の時に朝顔やチューリップを育てたことがありますか?
あれも今思うと、人生におけるすごく重要な法則を学んでいたと思うんです。
小学生で学んでいるのに、それを活かせなかった。難しいものですね。

最後に話は全然変わりますが、私は30歳を過ぎて入った会社で多くのスキルを学びました。
文中にも書いた通り、自分で気づいて素直に行動していたら、同じような考え方やスキルを身につけていたかもしれません。
しかし、20代で勤めていた従業員100人規模の会社では同じような研修は受けることが不可能だったでしょう。
自分で気づいて同じスキルを身につけるということは私のような人間には相当難しかったはず。
大企業は、そのような研修を組織的に全従業員に行います。
この違い、経験していないと全く想像できないと思いますが、大企業と中小企業の競争力という点で相当な力の差になって現れると思います。

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